それなりに

少し前に同年代の俳優の自殺のニュースがあった。名前を聞いてもピンとこなかったが、写真を見るとよくドラマで見た顔だった。最近のものにも出ていたし、ニュースによると多くの仕事を抱える活躍中の俳優だった。
40歳を不惑だと思わない。むしろその逆なのではないだろうか。勢いのある20代やそれまでの財産を使いながら実績を積み上げた30代に比して、40代は実は迷いを深める年代なのではないかと思う。現に私の周りの同年代はとても深刻に悩み、集中できず伸び悩んでいる者が多い。
先を見てしまうのだろうか。20代の頃は先が少々暗かったり、霧の中にいるようにぼんやりとしか見えなかったとしても走り切る勢いや勇気があったし、30代では着実に足元を見て前進して行けた。
しかし40代になるとふと顔を上げてかなり先の将来についてまで考えてしまうのだろう。その時は自分のことだけでなく周りのことも考えるので、少しでも不透明な部分があれば強烈な不安に襲われ、自分が積み上げてきたものに対しても自信を持てなくなるのではないだろうか。
でも、20代のときにも30代のときにも悩んできたはずではないか。だから大丈夫だ。50代になれば40代のときの悩みがバカバカしく思えるだろうし、60代になればそれまでの悩みが無邪気に思えるだろう。それ以降になれば懐かしく感じ、悩んでいた頃の自分を羨ましく思うことになるに違いない。
だからと言って悩みから逃げてはいけない。悩みぬくからこそ懐かしむこともできるのだ。
少し歩くと息が切れる、階段でつまずく、小さな字が読みにくい、傷の治りが遅くなる、酒が翌日に残る、サーロインよりヘレの方がよくなる。
先輩たちが通ってきた道。自分だけが衰える訳ではない。自分だけが悩んでいる訳でもない。前を見すぎて不安になるのだったら、視線を足元に戻し一歩先だけを見ればいい。いつか聞いたことがあるマラソン選手の言葉にあった「あの電柱まで」と同じように。
誰に対するエール?俺?
いやいや俺はそんなに悩んでへんで。
でも「落ち込んでるわぁ」という奴に落ち込んでいる奴はいないし、酔っ払ってる奴に限って「全然酔うてへんれぇ」と呂律が回ってないな。

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