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おばちゃんがいたところ

「おーい、おばはん、刷り上ったぞ!」という口の悪いベテラン印刷職人の声で製本作業台の上で寝ていたおばちゃんが動き始める。おばちゃんは刷り上ったA全判の紙の山の前に立ち、右手の親指と人差し指で紙の端をつまみ手首を少し返す。すると紙は美しく扇型に広がる。左手の親指をペロっと舐めたおばちゃんは紙を5枚ずつ数え始め、50枚ごとに互い違いにずらしていく。あっという間に作業を終えたおばちゃんは自分の場所である作業台に戻り、寝る前に吸っていたセブンスターのシケモクに火を付ける。
私は小学校高学年から毎年春休みには社会見学を兼ねた納品の手伝いでこの会社に出入りしていた。その頃からおばちゃんはおばちゃんだった。ちっちゃなおばちゃんは昼休みにはやはり作業台の上で昼寝をしていて、1本のセブンスターを何度かに分けて吸っていた。仕事の合間にはよく昔話を話してくれたが、私が入社した後の昔話は必ず「あんたはおじいちゃんによく似てる。」で終わった。震災の2年位前に引退したおばちゃんはその後会社に顔を出したことは無い。今どこにいるのかも分からない。
昨日、建て替え前の社屋にあったおばちゃんの作業台辺りでほうきを持っている私がいた。じいさんがよく会社のあちらこちらを掃除していたことを思い出した。掃除しながらおばちゃんの言葉も思い出していた。この新社屋を一番見てもらいたいのはじいさんだが二番目はおばちゃんだ。
おばちゃんがいたところには今昨年末導入した新しい製本機がある。

製本機.jpg

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2006年1月18日 14:27に投稿されたエントリーのページです。

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