2006年1月アーカイブ

革バカのおやじを知っています。
数年前財布を買い替えたかった私は色々なショップを見て回りましたが、気に入るものがなく、ようやくネット上で見付けた鞄職人と称する人が作った財布を買ってはみたもののとても満足できるものではありませんでした。仕方なくそれを使いながらさらにネットで探していると、あるサイトの一部で少しだけ紹介されている鞄工房が六甲アイランドにあるという情報に出会いました。近いという理由だけですぐにそこを訪れてみると、そこに置かれていた財布は完璧に私が求めているもので、まるで私のためにオーダーメイドされたもののようでした。あまりに嬉しく、そこにいたおやじに話かけるとそのおやじは初対面の私に延々と革の話をするのです。しかしおやじが口にするブランドのほとんどは私にとって初めて聞くものばかり。それもそのはず、話に出てくるブランドは鞄のブランドではなく、革のタンナー等の会社、つまり革そのもののブランドなのでした。
そんなおやじのところにちょくちょく顔を出させてもらうようになって、少しずつ身の回りがおやじの作品で占めるようになっていったのですが、私が行くとおやじは私の靴を見て「いい靴ですね。」と言うのではなく「いい革ですね。」というのです。ある日、購入を検討している車のカタログを私に見せ、どっちがいいと思うかを尋ねてきました。しかし、片方はバリバリのスポーツカー、もう片方は思いっきりファミリービークル。車の種類の違いに唖然としつつ何故この2車が候補になっているかを逆に尋ねると、シートの革で車を選ぼうとするのです。これを革バカと呼ばずに何と呼べばいいのでしょう。

私は印刷物だけではなく情報発信のための様々なメディアに関わる仕事をしています。私は情報バカ・メディアバカでしょうか?

1年以上前から新しい財布を作ってくれるよう頼んでいるのですが、全く手を付けようとしてくれません。最初は忙しくなってきてなかなかたどり着かないんだと思っていましたが、最近になって数年使って艶が出てきた私の財布が引退することを惜しんでいるのではないかと思えるようになってきました。商売より自分の作品が長く愛されて使われることを選ぶ人だと思うのです。
今私が使っている財布は本当に素晴らしいものですが、一つだけ重大な欠陥があります。それは入れていたはずのお金があっという間に消えてなくなることです。これを修理してくれたら私はおやじをバカ呼ばわりしません。神と呼ぶことになるでしょう。

今日おやじに泣かされました。
http://www.kabanya.net/weblog/

「おーい、おばはん、刷り上ったぞ!」という口の悪いベテラン印刷職人の声で製本作業台の上で寝ていたおばちゃんが動き始める。おばちゃんは刷り上ったA全判の紙の山の前に立ち、右手の親指と人差し指で紙の端をつまみ手首を少し返す。すると紙は美しく扇型に広がる。左手の親指をペロっと舐めたおばちゃんは紙を5枚ずつ数え始め、50枚ごとに互い違いにずらしていく。あっという間に作業を終えたおばちゃんは自分の場所である作業台に戻り、寝る前に吸っていたセブンスターのシケモクに火を付ける。
私は小学校高学年から毎年春休みには社会見学を兼ねた納品の手伝いでこの会社に出入りしていた。その頃からおばちゃんはおばちゃんだった。ちっちゃなおばちゃんは昼休みにはやはり作業台の上で昼寝をしていて、1本のセブンスターを何度かに分けて吸っていた。仕事の合間にはよく昔話を話してくれたが、私が入社した後の昔話は必ず「あんたはおじいちゃんによく似てる。」で終わった。震災の2年位前に引退したおばちゃんはその後会社に顔を出したことは無い。今どこにいるのかも分からない。
昨日、建て替え前の社屋にあったおばちゃんの作業台辺りでほうきを持っている私がいた。じいさんがよく会社のあちらこちらを掃除していたことを思い出した。掃除しながらおばちゃんの言葉も思い出していた。この新社屋を一番見てもらいたいのはじいさんだが二番目はおばちゃんだ。
おばちゃんがいたところには今昨年末導入した新しい製本機がある。

製本機.jpg

ここ数年インターンシップの学生・生徒さんたちを受け入れている。一週間の就業体験でどれだけ実際の現場での仕事を体感させてあげられるか自信が無いまま、お客様の要請により何年も受け入れている。お客様には無責任で勝手なことを言っているようだが、実はこれは社員にとっても貴重な経験になっている。キャリアの浅い社員にとっては教えるということで自らが学び、挨拶などロクにしなくなったベテラン社員にとっては礼儀の大切さを再認識するいい機会になっている。

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これらはDTPによる制作や画像補正等を行っているところ。

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外注先である製本会社に見学に行ったところ。

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実際に印刷機(嘘みたいに古い機械)を操作しているところ。

上の写真以外でも社内であらゆる仕事を経験してもらって一週間の就業体験が終わる。
彼らに何か一つでも得るものがあったらと思いながら彼らを見送る。
数年前インターンシップで当社に来た「男の子」が今は当社にはかげがえのない戦力になっている。
一昨年インターンシップで当社に来た男女各一名が今春新入社員としてやってくる。
この場を経験した人たちがこの場を選んでくれるということは大変嬉しいこと。
あとは彼らを一人前に育てることが我々の責務である。

あけましておめでとうございます。
今日から今年の会社の業務が始まりました。約一週間の正月休みで確実に成長した腹回りを見ながら、38歳にしてよくも一週間でこれだけ成長できるものだと感心しています。
以前は一年があっという間に過ぎていくことを悲しんでばかりいましたが、この立場になると早い時間経過を喜ぶようになりました。無事に会社を一年続けることができたことと、借入金の返済期間が一年縮まったことを心の底から喜ぶようになったのです。もちろん何もしないで時間だけが過ぎて行ったのではありません。一日の積み重ねが一週間になり、一週間の積み重ねが一月になり、そして一月の積み重ねが一年になったわけですから、振り返ると濃く重い時間がそこにあったわけです。1時間が3,600秒であること、1年が365日であることは私にも平等に与えられた事実です。もがきながらも私なりに精一杯この一年を走り続けたいと思います。
「この会社に仕事を頼んでよかった」とお客様に思っていただき、「この会社に入ってよかった」と社員に思われることが私の使命だと思っています。そのため今年は「人にやさしく」をテーマに何事にも厳しく取り組んでいこうと思っています。

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